──学園都市、全土に──
──出現する──
──黒色の怪球──
【──展開──】
【──開始──】
【領域 (ドメイン) 支配を強化します】
【神体への負荷はありません】
【ひとは、我々を認識できない】
【回収開始】
【イースの偉大なる鐘を回収します】
【都市に、永劫休眠状態 (ルルイエ・モード) を強制します】
ゆっくりと──
ゆっくりと、怪球が学園都市に上陸する。
ゆっくりと、無数の怪球が次々と。
ゆっくりと、人工島を覆い尽くす。
すべての動力が停止した、
静寂の学園都市を。
すべての人々が眠りに落ちた、
無音の学園都市を。
黒怪球、その数実に2000体。
不気味に蠢くそれらが一斉に目指すのは──
──学園都市、中心部──
──すなわち──
──ディフの塔 (シャトー・ディフ)──
疾 (はし) る。疾る。疾る──
疾走する影、ひとつ──
浜辺の砂を踏み砕きながら、疾る。
夜気の冷ややかさを壊して、疾る。
ただ一陣の烈風となって暗がりを駆ける!
何よりも迅い影。
何よりも猛る影。
足下の影さえ残さずに影は疾っていく。
怒れる影。
雷なる影。
──影の名は、ニコラ・テスラといった。
雷電感覚、全種起動。
雷電芯核、全力起動。
雷電兵装、全開起動。
認識を最大限に拡大。
走査──
何処だ。
何処にいる。
何処で見ている──!
怪球出現の直後、
彼は飛空艇を出て海へ疾っていた。
疾走しながら姿を変える。
人ならぬ雷電に。
猛々しき雷電に。
その腰部には機械の帯 (マシンベルト)。
その両手には機械の籠手 (マシンアーム)。
たなびく黒い襟巻は激しく雷電を帯びて。
遠い異国の服を纏い、
空の果ての雷を纏い、
刹那に、疾走のままに姿を変えて。
[Tesla] ──ッ!
拡大させた認識で捉える。
いた、あそこだ。
怪球に呑まれた少女の、
ネオンの生体反応は健在。生きてはいる。
体温正常、負傷を受けた様子は未だない。
だが──
届かなかった。
敵の出現及びネオンの確保、
こちらの攻撃を回避しての空間離脱。
有り得ない迅さだった。
地上の存在に有り得る速度ではない!
この雷電を上回るもの。
正しき物理に依らざるもの。
およそ、幻想なりし我が身と同じくして──!
[Tesla] ──そこ、か。
暗がりの浜辺の一点にて立ち止まり、
白の彼は海を見る。
昼間の穏やかさとは異なる、
永遠の暗がりそのものである昏い深淵を。
深淵。魔の気配。
黄金の魔たる薔薇十字 (ローゼンクロイツ) とは違う。
これは、もっと旧きものの気配。
海の深淵。
海の遺跡。
であれば、その正体は──
[Tesla] 見ていたな。
今まで、お前はそこでずっと。
[Tesla] 我が認識領域を狂わせて──
感覚を調整する。
基底現実を観測する視覚、感覚から、
世界の果てを見据える雷の両瞳へと。
変える。
見える。
わかる。
そこに、果たして何がいるのか。
否。最初からいたのだ。
この島へ足を踏み入れた時には、既に。
もしくは、もっと以前より。
一体、いつから──?
[Tesla] 成る程。
我が眠りが深くもなる訳だ。
[Tesla] 学園都市も、この島も、
貴様の支配領域 (ドメイン) であったという訳か。
[Tesla] 水なるもの、
たゆたう黒。
それらはすべて貴様の一部。
声に──
[Tesla] なればこそ、理解はできる。
ディフの塔に残る権能を求めるか。
雷電、混ざり──
[Tesla] その生存執着は哀れの一語。
だが──
紫電が──
[Tesla] ネオンは返して貰うぞ。
深淵にてたゆたい、微睡むもの!
彼の周囲に、走る──!
[Tesla] 旧き世界に死せるもの!
遠き空より顕れて、夢見るものよ!
[Tesla] 汝、海魔の王。
たゆたう水にして押し潰す波濤!
[Tesla] ──星砕きし水の塊 (クトゥルー)!
──赫い──
──輝きを湛えて──
──海中から湧き上がる巨体──
──巨大なる死の巨人──
──無貌なりしもの──
──夢見て眠る旧き、虚なる神──
──虚神、彼を睨め付けて──
──咆哮する──
『ニコラ・テスラ!』