例題です。
いいえ。
これは例題ではありません。
回答を入力することはできません。
介入は不可能です。
なぜなら、これは、
既に決定された事象だからです。
世界に介入することはできません。
たとえ、世界の敵であっても。
ですから──
或いは──
誰かが、寄り添ったとしても。
意味などない。
すべて。そう、すべて。
あらゆるものは
意味を
持たない
[Tesla] ……ん。
瞼を、開く。
暗がりの視界が露わになる。
些か、彼は驚いていた。
どうやらまた意識を失っていたらしい。
眠っていた。うたた寝の類か。
遠い日に失ったはずの感覚。
73年ぶりの感覚だ。
それが、こうも立て続けに起きる。
睡眠など殆ど必要としない身だ。
うたた寝に、意味などないだろうに。
こんなことはそうあることではなかった。
人間のように深く眠るなどと。
何故、と彼は考えなかった。
この1ヶ月というもの、考えてみれば
我が身には不思議ばかりが起きている。
触れ合って──
温もりを感じた、
あの時から。
もしくは、その後に。
空の下で声掛けられた、あの時にか?
[Tesla](どちらにせよあの日、か)
──3月22日。
──ネオン・スカラ・スミリヤと触れて。
──愛おしさと安らぎ感じた、あの時から。
あの笑顔を自分は忘れまい。
きっと、文字通り永遠に。
たとえ世界の果てで朽ち果てようと、
あの笑顔、あの声を思い起こせば、
無限の戦いに自分は身を投じられるだろう。
幾百万の100の倍を救う。
そう、あの年若き への誓いも。
きっと叶えてみせよう。
そう、ひとりごちながら
彼は寝台から身を起こそうと──
[Neon] ……あっ。
声─
[Neon] 起こしちゃいましたね。
ごめんなさい、マスター。
[Neon] まだ、夜中です。
眠っていていいんですよ。
[Tesla] いや。私は人間ほどには眠りを
必要としない……。
[Neon] でも、ぐっすりお休みでした。
寝息も立てずに。
[Tesla] 必要としない、はず。
なんだがな。
寝台に横たわったまま応える。
見上げて、見つめる。
ネオン・スカラ。
我が最愛にして最大の輝きを。
彼が意識を失っている間に、
ネオンは寝間着に着替えていたらしい。
実に、美しく愛らしい。
遙かなるオベイロンの領域にて微笑む
妖精の姫さえかくや、といったところ。
[Tesla] ……もう一度、謝罪しよう。
私はどうやら軽率に過ぎたらしい。
[Neon] はい。わかりました。
予想外、にも──
[Neon] 謝罪を受け入れます。
もう、目、逸らさないでくださいね。
さらり、と。言葉。
ああ、何ということだろう。
こうまで、お前はあっさりと許すのか。
この愚者を許してみせるのか。
迷い、惑った我が身を責めず、
ただ、あの口付けだけで。許すのか。
視界が一瞬だけぶれる。
気付かれないよう、彼は目元を押さえて。
[Tesla] ……そう努めよう。
万感の想い、込めて。
瞼を閉じて──
[Tesla] お前は……。
逡巡しつつ。
しかし、唇を開く。
嘘は言わない。呪いのためだ。
故に、多弁を避けたつもりではあったが。
隠すことで傷付けることもある。
ならば、この唇は閉ざせまい。
[Tesla] お前は輝きだ。
ネオン・スカラ・スミリヤ。
[Tesla] 私が世界介入を行わずとも、
お前は自らの友を救ってみせた。
私よりも先に。
[Tesla] お前だ。
お前こそが私の輝きだ。
[Tesla] ……最愛にして、最大の。
[Neon] えっと──
[Neon] それって。えっと……。
[Neon] つまり、好き、ってことで
いいんです……か?
少女の声が揺れている。
言葉も、そうだ。
またも伝わり難い言葉だったか。
白の彼は自省しつつ、瞼を開いて。
視線向けて。
言葉を、告げる。
否。告げようとする──
──刹那──
──時が、歪む──
──空間ごと──
──少女の、背後、に──
──異形の球体、ひとつ──
──浮かび上がって──
[Tesla] ネオン……ッ!!
[Neon] え?
敵だ。瞬時に、理解する。
何者かはわからないまでも認識できる。
何故。どうして。
そう自分自身へと叫ぶ意識を切断し、
雷電の身のすべてを攻撃行動へ移す。
指を向けて、雷電を疾らせる。
できるはず──
地上のあらゆる生物よりも自分は迅 い。
できるはず──
この指から放たれる電流は強力だ。
これほどの速度であれば加減はできまいから、
素のまま、10割の力の雷電の矢が放たれる。
不明の怪球体如き、
ただの一撃で完全に消し飛ぶ。
文字通りの光の速度で。
できるはず──
できる──
はず──