『ニコラ・テスラ』
──虚神、が──
──神なる旧き支配者 (グレートオールドワン) が──
『ニコラ・テスラ』
──彼を、喚んでいる──
『ニコラ・テスラ』
──死そのものを声として──
『ニコラ・テスラ』
──深淵の憤怒と共に──
偉容。威容。異様。
まさしくひとを圧倒させるものが、在った。
まさしく神なる偉容にして威容なる異様が。
海中から起き上がり、
その硬く柔らかな巨躯を濡らしながら。
今、ここに、神の巨体が出現していた。
実に、巨体は百五十フィートを超す。
遺跡島さえ見下ろす巨体!
雷電感覚が告げる。
地上に在らざる巨体の構成要素を。
イリジア鋼 (イーリディーム) で構成された巨体。
それは遠くカダスに眠る神体。
有り得ざる、神々の揺籃たる超鋼の機体。
その体躯は超鋼にして、
その体躯は深淵にして、
その体躯は物理を超える神秘そのもの!
遠き過去、遠き太古。
世界そらの果てより異境 (カダス) へ降り立った神の虚体。
この世界に在らざるもの。
この地球 (ほし) に在らざる、機械仕掛けの神。
カダスの果てで眠りたゆたうはずの、
あらゆる幻想の王種。
あらゆる太古の源泉。
既に死して、
既に、眠り、
地上に在らざる幻想の顕現どもの象徴!
いてはならないもの。
いるはずがないもの──
それが、何故ここにいる?
彼は疑問を感じながらもすぐに捨てた。
疑問など。意味はない。
意味、あるとすればただひとつ!
あれは我が愛しい輝きを奪った!
ただ、その一点のみ!
[Tesla] 我が名を呼ぶか!
深淵なりし旧き支配者よ!
[Tesla] 私は貴様に応えない。
先刻呑んだ輝き、直ちに──
[Tesla] 返して貰うッ!!
叫び──
彼は、右腕を高く空へと伸ばす!
暗がりの夜の空へ。
灰色と黒色の空へ。
声と動作に対応して反応するのは、
周囲に浮かぶ光剣5本!
光の刃が見る間に消えて、
柄のようにも見える黒芯が彼の目前、
そして腹部の中央へ──
[Tesla] ……借りるぞ。
呟き、彼は黒芯の先端部を抜き取る。
チェスの駒めいた剣針、
彼の手中に総じて5本。
それらを──
今まさに、中央機械部へと!
迷わず差し込む!
視線、超鋼の虚神へ向けたまま!
第1の剣針が中央機械部に刺さる。
『トール』
第2の剣針が中央機械部に刺さる。
『ヴァジュラ』
第3の剣針が中央機械部に刺さる。
『レイ=ゴン』
第4の剣針が中央機械部に刺さる。
『ユピテル』
第5の剣針が中央機械部に刺さる。
『ペルクナス』
駒めいた剣針総じて5本、
雷の神の名を冠した5本、
機械帯 (マシンベルト) の中央機械部へと挿入果たして。
僅かに、呟く。
空の果てへと向けて──
[Tesla] ──超電磁形態。来い!
──巨大な鎧──
──姿を、顕して──
──白銀の装甲が煌めいて──
──閃光が弾ける──
──轟雷が鳴り響く──
まばゆい光と共に──
大気が叫び、暗闇と共に空間が裂ける。
雷電が迸り、轟音と共に時間が砕ける。
光纏う鎧が、顕れる。
それは白銀色をした輝きだった。
それは異空の果ての輝きだった。
空の彼方から来たるもの、
灰色に染まった空を超えて来る。
あらゆる物理法則を従えながら
姿を見せる、巨大な人型。
その四肢は超鋼ならず鋼鉄であり、
その四肢は深淵ならず白銀であり、
その四肢は神秘ならず雷電、そのもの。
そして、揺るぎない意思が盾となり、
引き裂く憤怒が剣となる。
白銀の──
巨大な、騎士──
[Tesla]『──ネオン。我が輝き』
[Tesla]『其処にいるな。
私は、必ず、お前を取り戻す』
[Tesla]『天届く虚神顕れようとも、
鎧を纏い、私は、お前の元へ来る』
あらゆる物理を従えながら、
腕を組み、輝きの中で騎士は言った。
その頭部には巨大な翠の宝玉が。
その周囲には眩い輝きが。
迸る雷電は絶えず鎧の周囲を舞って、
白銀の装甲には黄金の意匠。
数十フィートを超す鎧を纏い、
空の果ての雷を更に多く纏い、
刹那に、彼は、騎士へと変わっていた。
──そして──
──騎士の瞳、輝いて──
──周囲に浮かぶ銀の盾、4つ──
騎士の内部──
胸部中心に位置する演奏席にて。
彼は瞼を閉ざしていた。
意識、集中させて。
電気騎士は彼のもうひとつの体躯。
電気騎士は彼の大鎧。
雷の鳳が遺した永遠の呪いのひとつ。
弛まぬ集中が必要となる。
これは鋼鉄であって、鎧だが、
決して機械ではない──
文字通りのもうひとつの体躯。
彼の全身から迸る雷電こそが、
生物に於ける神経と等しく働き、動く。
故に集中が必要となる。
騎士の全身を駆け巡る己が雷電の
疑似神経数万本を稼働させるには。
脳が灼ききれる感覚。
彼が雷電ならぬ身であれば──
刹那、絶命しているだろう。
けれど、彼は、生きている。
弛まぬ集中の渦で──
意識する。
集中する。
神経操作の鍵盤を引き出す!
左右から自動展開する鍵盤ふたつ、
これが騎士の神経中枢!
鍵盤のひとつひとつに
指置いて、さあ──
今、始めよう。
今、見せよう。
死と隣り合わせの騎士の勲!
瞼を開いて眼前を見やる。
視神経と繋がった騎士の瞳で。
電気騎士の瞳越しに、
大いなる、星砕きし水の塊を見つめて。
唇を開き──
己の内より溢れる言葉を紡ぐ。
[Tesla] 絶望の空に私は来る。
雷を、剣として。
[Tesla] 雷鳴と共に。
私は、鎧を纏い顕れよう。
[Tesla] ニコラ・テスラ超電磁形態。
──起動する。