割合に──
割合に、迅速な行動だった。
その場の全員共にそう感じていたはずだ。
停泊中の統治会専用飛空艇のほど近く。
波打ち際を歩く、数名の少女たち。
20世紀の夜は星明かりなど
望むべくもないから、機関灯(エンジンライト)を携えて。
昼はあれだけ暑かったのに、
夜の浜辺は、やけに冷え込んでいた。
まるで砂漠の気候のよう。
だから全員、
昼間とは違って服を着込んでいる。
寒い。わざわざ外に出る、
という気を萎えさせてしまうほどに。
けれど、出ていた。
その場の全員が満場一致で同意して。
先刻のこと──
やや躊躇いがちに各員の部屋を回って、
外に出よう、と長身の娘が言ったのだ。
概ね全員が確かにと頷いて、
こうして、専用飛空艇の外に出て来た。
緑の髪の少女だけは、当初、
何のことかわからない顔だったものの。
緑の髪の少女だけは、暫く、
あれこれと言って渋ってはいたものの。
最後には、折れて。
ふたりが仲直りするなら、と──
[Izumi] んー……。
仲直り、できたかな?
そろそろ?
[Emily] さあ、どうでしょうね。
なにぶん彼は難しい方ですから。
[Jo] そうさねー……。
決めるところは決めてくれるけどさ。
必ず間に合うんだよね、彼。
[Annabeth] あ、それ、わかるなぁ。
やっぱり《鋼鉄の男》(マン・オブ・スティール) に似てるんだ、
どこかの誰かさんって。
[Emily] なにかしら?
[Jo] 合衆国で人気のコミックだよ。
あれ、もしかしてエミーってば知らない?
[Emily] コミック?
どういうものかしら。
[Izumi] あ。それ昔に院で呼んだことあるよ。
あれでしょう、赤と青の男!
[Annabeth] えーっと、まず、小説の挿絵があるよね?
あれに台詞をつけたものを何枚も
重ねて作る、絵本のような……。
[Emily] 絵本?
[Jo] あ、その説明うまい。
そういう言い方だとわかりやすいねえ。
[Annabeth] 前にもこういう説明したんだ。
でも、やっぱり伝わらなかったけどね。
[Izumi] 学園都市 (アカデミア) にコミックってあるの?
図書館行けばある、かな?
[Emily] おや。その口ぶりでは
図書館へ入った経験がないようですね?
[Izumi] あ。
笑い合う少女たち。
他愛なく。
しばらく、このままこうしていようか?
誰ともなくそう言い出して。
全員が思い思いに頷いていた。
いつまでかかるものか不明でもあったし、
考えるべきことを考えたい少女もいたし。
悪くない。
朝まで、このまま歩いても。
島をぐるりと一周して、
この際、反対側を見てみるのも悪くない。
困ることと言えば、
朝が来ればまた暑くなるだろうから、
今、着込んでいる服はどうしようか。
それぐらいのものだった。
気に掛かること、など。
なかったはずだった。
が──
初めに気付いたのは、
やはり、長身の娘だった。
即座に緑の髪の少女とゴーグルの少女を
背後に庇い、親友へ目配せを送る。
既に、親友たる娘は視線を向けていた。
突然の闖入者に。
突然の襲来者に。
すなわち──
波間に、浮かぶ──
黒色の──
[Emily] あれは──
黒色の怪球体。
それが、波間に浮かんでいた。
恐らくは金属なのだろう、
けれども光沢の類が一切ない黒の怪球だ。
機械仕掛けの印象はあるが正確には不明。
怪球を中心として、
幾つもの機械的部品が付属して、
どこか、有機的な印象さえ在る。
黒色怪球。
機械怪球。
文字通りに浮かんでいる。
海面上に立っているようにも見えるものの、
実際には浮遊していることは明らかだった。
浜辺の少女たちを見つめるもの。
視線を受け止めて、ゆらりと動くもの。
娘はすべてを《計算》する。
故に、怪球体は浮遊物だと即断した。
同時に。
あれの有する危険性をも──
【黄金瞳を確認しました】
[Jo] 何──?
【自動機能が起動します】
【戦闘起動準備】
【準備完了】
危険だ。これは──
長身の娘の先天的な直感覚が告げている。
逃げろ、と。
これは危険なものだ。
正体はわからない。
ただ、ただ、危険なもの──
恐るべきもの。
ひとの悉くを貪り喰らうもの。
ひとが、見てはいけないもの!
【──回収──】
【──開始──】