例題です。
いいえ、これは例題ではありません。
少年は敗れました。
戦士は敗れました。
少年は幻想であるが故に無敵です。
無敵であるが故に幻想なのです。
では、同じ幻想と相対すれば?
より大きな幻想は?
呑み込まれてしまうでしょう。
そして、やがて消えていく。
幻のようなもの。
影のようなもの。
それは、消えて、忘れられていきます。
それが世界というものです。
けれど、
もしも──
誰か、ひとりが──
望むなら──
「以前の私であれば」
「ここで、終わっていたのだろう」
「だが……」
「私には……」
「我が第1の師の教え、胸に」
「我が第2の師の機械帯、ここに」
「そして」
「我が雷電を迸らせる、
この、10万の輝きが……ある……」
「故に、私は──」
世界介入
【──入力──】
【──承認──】
【介入を開始します】
【神体への影響が発生します】
【基底現実を書き換えます】
輝き、が──
迸るものがあった。
それは、ひどくささやかなものだ。
空の果てに疾ったとしても、
誰もが目を留めるものではないだろう。
多くはその存在にさえ気付かないもの。
けれど確かに。
それは、輝きだった。
けれど確かに。
それはそこに在った。
けれど確かに。
それを目に留める者はいた。
故にこそ──
電気騎士は再起動する。
電気騎士は再構成されて、立ち上がる。
ニコラ・テスラは蘇る。
ニコラ・テスラは未だ世界に在る。
立ち上がる。
立ち上がることが、できる。
まだ。諦めない。
決して、諦めることはない。
立ち上がれと呼ぶ声が聞こえる。
幻聴か。そうなのだろう。
けれど、それは同時に我が名を呼ぶはずだ。
ならば──
絶望の空に──
我が名、呼ぶ声がある限り!
[Tesla] 私は……。
決して、諦めない。
立ち上がる──
[Tesla] 地上に輝き在る限り、
絶望の空がすべてを覆い尽くそうと。
立ち上がることが、できる──
[Tesla] 戦い続けよう。
たとえ、あなたが敵になろうとも。
私には──
今、ここで──!
[Tesla] 我が輝きの子ら──
[Tesla] そして、最愛なりし輝きが在る。
それは、我が無限の電力である。
故に私は斃れはしない!
[Tesla] さあ、その盲いた赫瞳にて!
[Tesla] 刮目せよ!
我が師、チャールズ・バベッジ!
~~~~~~
[Walter] 我が異能!
我が加速!
踏み砕け、巨いなりしは我が足撃 (タイタン・フィート)!!
[Berta] 併せるぞ──
我流奥義、絶妙剣!
超音速による衝撃波から──
併せての、白刃の舞が浜辺を引き裂く!
衝撃波と斬撃の同時攻撃!
速度の彼とサムライの連携によって、
無数の怪球が砕かれ両断されていく。
接触による万象致死の効果を持つ
黒色の怪球は、人間を圧倒するはずだった。
ひとは、 に克つことはできない。
見るがいい。
怪球体の群れは途絶えることがない。
永遠無限に押し寄せる死に克てるか?
しかし。彼らは──
学園都市最高。
学園都市最強。
統治会最大攻撃力と謳われた両名!
世界に反旗を翻した雷電魔人を師とする、
学園都市最高最強の異能使い!
死した幻想に遅れは取らない!
[Walter] 一体何者だこいつらは!
砕いても砕いてもきりがない!
瞬時に戦闘服へと換装し、
速度の彼が叫ぶ──
[Berta] 物事には終わりがある。
すべて斬り捨てればおのずと終わる!
来るぞ、ヴァルター殿!
[Walter] チッ。面倒だ、一気に片付ける!
オルトロスなしで撃つぞ!
再度併せろ!
[Berta] 承知。
速度の彼がサムライの肩に触れる。
触れるすべてを際限なく加速させる異能、
是が、ここで、合わさって──
繰り出される合体攻撃は、
加速。加速。超加速の果て!
超音速移動による無数斬撃!
[Walter & Berta] ──巨いなりしは千余の嵐 (サウザンドテンペスト) ッ!!
[Jo] ──ッ!!
大切断──
黒色怪球体が上下に二等分断される!
機械斧ヘパイトスは不可侵の怪球体を両断、
そのまま残骸さえ残さず大気に蒸散させる!
その威力は驚異!
並の斧ならば逆に砕かれている。
だが、是こそ、幻想殺しの斧なれば!
続けざまに──
放たれる一条──!!
射出される鋼鉄の矢、ひとつ!
碩学機械製の超大型複合弓アルテミス!
ここより放たれる一撃は、狙い違わず!
夜気を引き裂いて、
音よりも疾く敵を仕留める!
すなわち、無数の怪球体
物言わず憤怒の気配伴って迫る、黒色へ!
着弾。炸裂──!
鍛造された黒鋼 (クローム) の刃、アルテミスの黒矢!
すべて違わず黒色怪球の群れを砕く!
[Jo] ……で、何だいあれ!
そろそろ見当付いてるんだろ、エミー!
[Emilie] 自動機械 (オートマトン) のようです。
ただの機関機械 (エンジン) ではないようだけれど、
要は、機械仕掛けの戦闘機械 (ウォーマシン)。
[Jo] レディの杞憂は大当たりか。
あっちじゃマスターが大暴れだしさ!
完璧な布陣、だった。
この両名を前に怪球体は為す術もない。
長身の娘は己が異能の強化効果によって
友の身体能力を引き上げて弓を強化する。
弓の娘は、速射を続け──
接近する怪球は悉く、
長身の娘が機械斧で両断する。
まさに、完璧。
まさに、無敵。
ただの異形などに負けはしない。
たったひとりで世界と戦う──
雷電魔人そのひとを師と仰いだ、両名!
負けるはずがない。
倒れるはずがない。
何故なら、海の上に師の輝きは今も在る!
[Emilie] 後方より別働隊が接近しています。
そちら、お願いね。
[Jo] まーかせて!
まだまだ行けるよ!
で、ヴァルターたちは大丈夫かね?
[Emilie] 彼らであれば問題ないでしょう。
左翼側の敵は殲滅できる。
[Jo] あたしたちは?
[Emilie] 当然、右翼側を殲滅!
[Jo] 了解っと。ほーら、あんたたち!
絶対エミリーから離れないこと!
声、掛けられて──
[Annabeth] は、はいっ。
絶対動かない動かないっ!
ゴーグルの娘が頷く。
深々と何度も、まっすぐに。
視界の端に見えるもの、
遠く海上に聳える巨人と相対する白銀色。
あれを、ずっと見ているから──
黒色の怪球体を目にしても、
恐慌状態には陥らない。
恐怖に精神が殺されることも、ない。
娘は、既に知っていた。
あの輝きが、誰のものであるか──
そして──
[Izumi] 大丈夫だよ、先輩。
ネオンとテスラ君がいるんだもの。
緑の髪の少女が呟く。
そっと、ゴーグルの娘に触れて。
[Annabeth] へ……?
[Izumi] あそこいるよ、ネオン。
なんとなくわかる。なんでかな。
[Annabeth] ネオンが……?
どこ、あの巨人の中?
[Izumi] そう、あっちの大きいほう。
ずっといるみたい。
海にそびえる巨影を見つめて。
頭の上の“耳”を、何度か動かして。
少女は静かに呟く。
ここにいない友達に語りかける。
すぐ、傍らにいるように。
囁くように。
頷きながら、何かを感じて。
確かめるように。
頷きながら、何かを信じて。
[Izumi] そうだよね、ネオン。
そのおじさん……でっかいおじさん。
[Izumi] テスラ君に用があるんだよ。
だから、学園都市までやって来た。
[Izumi] それで、見つけたんだ。
ネオンのこと──